”その日” は、突然やってきた・・・なんの前兆も前触れも無く。
今から、約2年前(2013/12)のある日、いつものように会社に出社し、始業時間になったので業務を始めようと思った、その時、
社長が、その場に居た社員全員を注目させた。
「ちょっと、こっちに集まってくれるー」
僕含め、その場に居た50人ぐらいの社員が席を立ち、社長の方へ向かう。
そして、”ソレ”は告げられた。
「実は、ウチの会社ですが、”買収” される事になりました。」
僕は、耳を疑った。。。なんの前触れも無く、本当に唐突に、社長はそう言い渡した。
社長は、さらに続ける。
「ですが、みんな心配しないでください。コレは、全く悲観的に考える事ではありません。むしろ、前向きに考える事です。」
「敵対的な買収ではなく、友好的に当社の将来を考えた末の結論です。当然、社員の皆が、いますぐクビになったり。。。なんてこともありません」
「今までリソース(人や資金)が無くて、泣く泣く出来なかったような事業にも、今後は、積極的にリソースを割いて取り組む事が可能になります。夢がもっと広がっていくのです。」
「だから悲観的にならずに、チャレンジできる機会が増えていくのだと。。前向きに考えて、今後も頑張っていきましょう。」
その後、気になる買収元の企業名も伝えられ、僕の”驚き” はさらに高まった。
僕はてっきり、同じ業界の会社に買収されたのかと予想していたのだが、その予想は大きく外れ、全く予想が付かなかった上に、世間一般的に認知されている、有名なところに買収されたのが、また衝撃だった。
ちなみに、僕の働いていた会社は、EC関係の中小・ベンチャー会社で、僕はてっきり「R(イニシャル)」に買収されたのだと予想していたが、全く違った外資系企業の大手IT・インターネット会社だった。
買収理由は単純で、新たな事業として「EC」関連の事業を起こしたかった。。そこで、ノウハウやリソースを持っている当社に目を付けたわけです。
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あれから、約2年が経った現在(2016/1)
「買収」は、「吸収合併」へと姿形を変え、当時僕が働いていた会社は、社会の藻屑の中に跡形も無く消え去り、
外資系・大手IT企業の一員として、今日もせっせと働いている。
※「買収」と「吸収合併」の違いは、端的に言うと、会社が残るか・残らないかです。。
買収の場合は、子会社などになり、会社自体は残りますが、
合併の場合は、二つ以上の会社が一つになって、会社自体が残りません。
ですが、「合併」の場合、公的な手続きや会社間の調整などに、かなり時間を要するので、「買収」 → 「合併(吸収合併)」と段階的におこなわれる形となりました。
ということで今回は、買収宣言を受けてから、2年が経った今、会社や社員がどのように変化してきたのか・・・
僕(社員)の目線で、買収(吸収合併)された後の変化や、メリット・デメリットを、順にまとめてみました。
1、役員・株主の刷新 ~IT系の中小企業が、大手外資系企業に買収・吸収合併されたらどうなる?~
買収宣告されて、まずおこなわれたのが、株主と役員メンバーの刷新だった。
(宣告から、0~1ヶ月)
「買収による影響は、現場ではなく、まず上から行われていく。」とよく言われているが、まさにこの事。
コレによって、今まで「株主総会」や「取締役会」の時だけ、たまに見かけていたオジちゃんとかを、見かける事は無くなった。
また、買収元の人間(偉い人達)が、株主や役員メンバーとなり、「議決権」を持てるよう構成比率を調整していった。
2、新規事業の積極的参入 ~IT系の中小企業が、大手外資系企業に買収・吸収合併されたらどうなる?~
上層部が変わっていった後、次におこなわれたのが、新規事業への積極的参入だった。
上述している通り、僕のいる会社が買収された理由は、「EC事業への新規参入のための、ノウハウやリソース確保」であったため、ソレが徐々にスタートしていった感じである。
(買収から1ヶ月程度で「案」が出始め、2・3か月で、具体的な事業内容の企画が決められていった)
もともと当社(買収される前)は、EC関連のサービスとして、
・ユーザー毎にシステムをカスタマイズしていく受注型サービス
これら二つのサービスを主軸として事業をおこなっていた。
コレに対し、買収された後は、前者のバージョンアップ作業をほぼストップ(必要不可欠な場合のみ、バージョンアップさせる方針)
さらに、後者のサービスを徐々に収束させていく事でリソース(人員)を削っていき、新規案件への営業も完全にストップ。(すでにスタートしていた既存案件に関しては、当然途中で切ることはできないので、そのまま継続していった)
それによって余った人員は全員、買収元企業の「新規プロジェクト」にアサインされた。
そして、その新規プロジェクトというのが、大規模ECサービスであった。(例えるなら、「R」や「Y」が提供しているような、ECモール・プラットフォーム・サービス)
で・・・
僕自身はというと、現場の下っ端ということで、買収されて半年ほどは、特に仕事内容に変化は無かった。
(ECパッケージサービスの、必要不可欠なバージョンアップ作業を淡々とこなしていた)
だが半年が経過したあたりから、バージョンアップ作業が一段落ついた事もあり、僕も徐々に「新規プロジェクト」に関わるようになっていった。
僕が関わった段階の「新規プロジェクト」は、サービスの概要(おおまかな構想)や機能一覧は既に決まっていて、各機能の詳細な設計をメンバーがおこなっている段階だった。
ということで、僕もいくつかの機能の「設計」を任せられる事になり、プロジェクト関係者とのコミュニケーション・ロスの問題で、仕事場も、今の所から、買収元の仕事場へ引っ越す事となった。
ちなみに、もともと居た仕事場は、かなり閑散とした所の、とあるビルの、とある一室で、50人ぐらいがキャパの所だったのだが・・
買収元のビルは、東京のど真ん中にある、かなり大きい高層ビルで、そこの3フロアが全部貸し切られていて、1000人以上を収容できるようなキャパ。。
さらに、会社専用の喫茶店やラウンジなどが用意されていて、ドリンクも無料で飲ませてくれるといった・・・かなり素晴らしい環境だった。
だが僕個人的には、とにかく広大な一室に、人の移動や出入りが激しく、なんか落ち着かない感じだったので、はやく元居た仕事場に戻りたかった。。
で。。
プロジェクト人数も、今までの10倍以上の人達が関わっていて、海外(中国系)の人達(凄腕プログラマー)とも、関わったりした。
(ちなみに僕は、まったく英語能力は無く、グローバル指数ゼロなのだが、関わった人は、(発音にクセはありながらも)日本語を話せる人達だったので、なんとか意思疎通をはかることが出来た。)
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とまぁ、こんな感じで、もともとおこなっていたサービスは徐々に収束させていき、それに伴って買収元の新規サービスへの集中化がされていった。
また、買収元も、リソース(金と人員)をかなり投下していることから、かなりチカラを入れているのが分かった。
3、組織体系の変更 ~IT系の中小企業が、大手外資系企業に買収・吸収合併されたらどうなる?~
買収されてすぐに、役員陣や株主構成が大幅に変更されたのだが、買収から3・4ヶ月が経ったあたりから、現場にも影響のある組織変更が、徐々におこなわれていき、
上述している、「新規事業への積極的参入」によって、その流れは加速していった。
まずは、各部の意思決定者である「部長」や「副部長」クラスのポジションに、買収元から派遣されてきた人達が介入してきて、
徐々にその人達が指揮をとっていけるような流れへとなっていった。
僕が所属していた開発部の部長も、自分の仕事を徐々に引き継いでいって、最終的には部長職を解任され、新規事業のプロジェクト責任者となっていった。
(当時、開発部の全体ミーティングで、部長が、部長職を解任する発表をした時は、これまでの開発部が根本から解体されていく不安や、今後、残された開発部メンバーはどーなっていくんだろう。。という将来不安が、その部屋全体を覆っていたことを、今でも忘れられない。。)
さらに、、
サービスの棚卸しと、抜本的見直しがされていき、もともと行っていた「サービス」は徐々に収束していったので
それによって余った人員が、「新規サービス」のプロジェクトへ配属されていったので、現場のグループ構成も大きく変化していった。
ちなみに、僕の居た開発グループは、もともと「12人」居たのだが、早々と5人が移動していき、現在(2016/1)では、5人のメンバーにまで減っている。
4、グループウェアの刷新 ~IT系の中小企業が、大手外資系企業に買収・吸収合併されたらどうなる?~
グループウェアとは・・・企業で、情報共有やコミュニケーション、スケジュール共有やタスク共有・勤怠管理などをおこなう社内システムの事です。
まぁ、会社で業務をおこなっていく時の基盤的システムなのですが、これらの刷新もおこなわれていき、全て買収元で使われていた社内システムに統合されていきました。
(買収から、3・4ヶ月あたりで刷新されていったのだが、過去のメールやりとりやログもあるので、しばらくは同時並行して使用していった。)
5、退職者の急増 ~IT系の中小ベンチャー会社が、海外のグローバル企業に買収・吸収合併された結果~
何の前触れもなく唐突な「買収宣告」だったこともあり、それからしばらくは、一抹の不安を感じながらも退職者は現れず、みんな様子見の段階だった。
だが・・
買収から、約3・4ヶ月目、新規プロジェクトへの集中化が始まり、現場レベルで組織変更がされていった時期に、状況は変わっていった。
今までの業務内容だったり、自分の立ち位置だったりが、一気に大手グローバル企業の波に飲まれてしまい、また一から「新規プロジェクト」の構成員としてやっていかなければならない。
組織規模も、今までとは比較に成らないほどの規模なので、100人にも満たない中小・ベンチャー企業でフレキシブルに働きたい。。なんていう人にとっては、当然合わない環境になる。
組織というのは、人が多ければ多いほど、意思決定の際のステップが増えていきます。(様々な人を介さなければならない)
それに伴って、コミュニケーションの取り方も、小さい所では、人単位で個人間で許されていた部分も、それが許容されず、部署単位でのコミュニケーションが必要になってきます。
また、人が多い組織では、部署・グループがちゃんと細分化されているので、当然、人一人あたりの裁量も低下していきます。
個人的にビックリした例としては、「DBチーム」というDB管理の専用チームがあって、DBのテーブルの値1つ更新するにも、わざわざそこのチームの承認を通さなければならないというルールに、非常に衝撃を受けました。(開発者アルアルなのかな・・)
また、もともと当社は、地方に本社があった。(東京は支社という形。)
だが、今回の買収によって、本社にいる人も、たびたび東京に繰り出さなければならなくなり、場合によっては、数ヶ月単位で東京での暮らしを余儀なくされた。
自分の知ってる中では、サービスの電話サポート部隊(10人程度)が、丸ごと拠点を「東京」に移された。。といった事もあった。(当然、それによって、引っ越し and 東京での一人暮らしが始まっていく)
このような流れから、退職者は急増していき、徐々に辞めていく人が増えていった。
6、会社の消失(完全統合) ~IT系の中小ベンチャーが、海外のグローバル企業に買収・吸収合併された結果~
買収から10ヶ月後、ついに、もともとあった会社が完全に無くなり、
買収元の企業と完全統合される形で、吸収合併が完成した。
これによって、会社の公式HPは刷新され、社員の名刺は全入れ替え。取引のあるクライアント企業やパートナーを結んでいる企業へのアナウンス作業に奔走することとなった。
また、元あった当社の役員陣も、当然全ての役職を一旦失い、社長は新規プロジェクトの事業責任者へと任命されたが、その後すぐに会社を去っていくこととなった。
(僕自身はというと・・・開発部の超下っ端ということで、特に影響はなく、名刺の社名が変わったぐらいであったw)
7、勤務地の変更 ~IT系の中小ベンチャー会社が、海外のグローバル企業に買収・吸収合併された結果~
買収から、約1年半後・・・勤務地も完全に買収元に統合するということで、大掛かりな引っ越しプロジェクトが始動した。
もとあった勤務地は、都内の中心地(山の手線内)からはちょっと外れたところにあり、駅から降りると、のどかで閑散とした光景が広がっていた。
いつも、出社するまえに「オリジン弁当」で弁当を買って、ローソンのおばあちゃん店員を一目見て、いつも通る「交差点」で黒い傘をさした、ミステリアスでロリータ・ファッションの女性にニヤニヤしながら出社していく、あの日常。
帰るときは、誰も遊んでない古臭い公演を通り過ぎて、部活帰りの女子高生達と被って、一緒に駅のホームで電車を待っていた、あの日常が、もー来ないと思うと・・・
明日からは、「The 都心!」
地下5・6階にある、最新鋭の地下鉄電車に乗って、満員電車に消耗し、地上に出ても高層ビルが立ち並ぶ。、”のどか”の要素なんてゼロに等しいような光景。
そんな事を思いながら、引越し時は、ちょっと感傷的になってしまう自分がいました。
8、勤務体系や給与体系の変更 ~IT系の中小ベンチャー会社が、海外のグローバル企業に買収・吸収合併された結果~
勤務地の変更があり、引っ越しが終わってすぐ、僕ら買収先の社員を対象に、勤務体系や給与体系・福利厚生の変更もおこなわれた。
まず、個人的にショックだったのが、
「フレックス制」の撤廃。。
これによって、
「今日私用があるので、15:00にあがります!」
といった事が出来なくなった。。
次に、
給与体系も、「みなし残業制」に変更。
これによって、残業代が固定で決まってしまう。
例えば、月に40時間分の残業代が、「みなし残業制」によって決まった場合。
残業を全くしない人にとっては、40時間分の残業代が、なにもしなくても入ってくるのでウハウハのシステム。
逆に残業が多くて、40時間以上の残業をしている方にとっては、マイナスになってしまう制度です。
(個人的には、現状(2016/1)ほとんど残業をすることは無いので、ウハウハの制度になっています。)
また、純粋な給与額(基本給)についても、買収元独自の基準に合わせ、僕の場合は、少しアップする事になりました。
また、会社の福利厚生で加入している「健康保険組合」も変更になったので、その辺(対象のメニュー)も違っています。
最後に・・・今後の自分について。
今回、僕のいた中小企業が、大手のグローバル企業に買収されて変化してきた事をまとめてきました。
買収されてから、約2年が経った現在(2016/1)ですが、自分と一緒に働いてきた人や近くにいた人・同期の人が、次々と辞めていった中、なんとか生き残ってしまっています。
これまで、なんで「退職」という決断をしてこなかったというと・・・
- 現状の立ち位置や仕事内容・業務時間に、満足してしまっている
- 経済的にも、あまり不満は無い
- 面倒くさい人間関係が少ない
- 転職活動が面倒くさい。というか転職できるかどうかも危うい、、
- 辞めるキッカケが無かった
- 辞めたら、今の現状が色々と壊れてしまう不安がある。(引きこもり廃人になったり、地方の実家に帰らざるおえなかったり。。)
こんなところです。
でも、僕のいるチームの事業も、いずれは「新規プロジェクト」の方に統合されてしまう方向性で進んでいます。
もし、そーなってしまえば、当然僕のいるチームは無くなってしまい、各メンバーは「新規プロジェクト」の方に配属されてしまうでしょう。
そーなれば、現状の立ち位置や仕事内容・業務時間の変更は確実であり、仕事上の人間関係も変わってきます。
その時点が、1つのターニングポイントかなと、個人的には思ってます。
どちらにせよ、今後数年に渡って、僕が現状のまま仕事を続けている将来像が全く見えないので、”終わり” は近いのではないのかなと、勝手に妄想しています。
ではまた、じゃーね。
この話、無茶苦茶怖いですね~。経済的植民地化ってこういうことか~って感じで。日本、一体どうなっちゃうんでしょう。上層部、中間管理職の方が退職後どうしているのかがとっても気になります。